玄海原発:町が描いた夢/9 (毎日新聞)
玄海原発:町が描いた夢/9 大金にひかれる周辺
毎日新聞(2009/03/15)
岸本英雄・玄海町長が今月、「議論すべき時期に来ている」と述べた中間貯蔵施設。07年にスイスの施設を視察し、「それほど危険ではない」とも言う。
この施設は、青森県六ケ所村の再処理工場でプルトニウムやウランを抽出するまでの間、原発から出た使用済み核燃料を一時保管する。
だが、「使用済み核燃料が永久に置かれるのではないか」という指摘もある。再処理工場は相次ぐトラブルで稼働が遅れ、工場で使用済み核燃料を加工した後に出る廃液を処分する高レベル放射性廃棄物最終処分場の立地場所も決まっていないためだ。
その最終処分場。かつて唐津市内の3地区で誘致話が浮上したことがあるが、住民の反対ですべて頓挫した。
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唐津市内のある地区。65歳以上が4割を占め、基幹産業の漁業の担い手も減少の一途だ。この地区の区長が「高レベル放射性廃棄物」という聞き慣れない言葉を耳にしたのは05年ごろだった。「20~30年は工事があって雇用も生まれる」と他の地区の有力者から持ちかけられた。
間もなく、説明会が開かれた。一部住民の呼びかけで地元住民約50人が集まり、福岡から来たという人物が処分場について説明した。だが、「生まれ育った土地を手放したくない」と反対の声が強まり、区長も承諾しなかった。
玄海原発の目と鼻の先にある旧鎮西町串地区でも、01年ごろ誘致話が持ち上がった。当時を知る住民は「『坪5万円で土地を買う』という大阪の業者の話を聞いたが、話がまったく違い、同意書に判も押さなかった」。
別の地区は03年、唐津市に「処分場の調査地として応募してほしい」と要望書を出した。だが、市幹部が話し合い、要望を拒否。安全性がはっきりせず、市として観光に力を入れているからだ。坂井俊之市長は「応募する意思は今後もない」と言い切る。
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最終処分場は原発のゴミを、地下300メートルより深い地中に埋める施設。ガラスと溶かしてステンレス容器に入れるが、放射能がウラン鉱石と同じレベルまで減るのに数万年かかる。
原子力発電環境整備機構(東京)が全国の市町村から候補地を募集し、東北、九州、四国などで誘致の動きが出たが、応募を受けて調査が始まった所はない。
同機構のパンフレットには巨額の数字がさらりと書かれている。文献調査(2年)だけで年間10億円、建設が決まれば、固定資産税約1600億円。建設や操業に伴う経済効果2兆円以上--。
処分場誘致は、こうした多額のカネが目当てだと言われる。
唐津市内で次々と誘致話が浮かぶ背景にも、ブローカーの存在と共に、原発マネーで潤う玄海町への羨望(せんぼう)がある。
だが、07年の高知県東洋町長選で、応募した推進派の前町長が大敗するなど「経済効果」だけでは支持が得られなくなっている。
「昔のように本当に貧しい時代でなく、それなりに生活が安定している今、原発やらを新しく造るのは難しいだろう」。玄海原発誘致の旗振り役だった元町議長、中山〓(しげき)さん(86)の実感だ。=つづく
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