玄海原発:町が描いた夢/8 芽生え始めた危機感
毎日新聞(2009/03/14)
福岡や鳥取で企業誘致に取り組んできた
岩城静三さん(53)が「企業誘致専門官」として玄海町に赴任したのは08年8月だった。岸本英雄町長の肝煎りで新設され、町レベルでは珍しいポストだ。
「最大の誘致企業」と町幹部が言う原発の存在で、町にはそれまで企業誘致を進める部署さえなかった。
だが、原発の恩恵は先細りしている。
同町に入る固定資産税は1、2号機で82年度に約20億円となった後、93年度に約9億円に落ち込む。その後3、4号機増設で再び増え、99年度に約49億円のピークを迎えた。しかし償却資産の価値が年々減り、07年度は約26億円まで下がった。
岩城さんの最初の仕事は
玄海町産業立地促進条例と
玄海町産業立地促進条例施行規則の策定だった。08年12月議会に提案し、県内のほとんどの市町が3年としている立地奨励金を5年と定めた。条例制定は県内20市町の中で19番目だ。
工業用水や用地確保もさることながら、最も頭を悩ませるのが、アクセスの不便さだ。「これまで携わってきた地域で最も条件が悪い。それを逆手に取るしかない」。風光(ふうこう)明媚(めいび)な土地を生かせる業種を呼び込み、人材交流で活性化を図り、住んでみたいと思わせる町にしたいという。
そのためにどうしても必要な条件がある。
原発マネーで潤ってきた町職員や町民の意識改革だ。「周りから何でもやってもらって快適な生活を得られたら、やる気は起きない」
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町民にも危機感が芽生え始めている。
外津(ほかわず)漁協(組合員約70人)組合長の野崎哲雄さん(59)は05年、住民グループ「玄起海(げんきかい)」を設立した。
当初は海産物や農作物をどうやって都市部に売り込むかが主眼だったが、1年間の話し合いを経て、地元の食材や自然を見直し、町に人を呼び込む方向に転換。地元産の魚をさばいて食べさせたりする体験型ツアーにこれまで約300人を受け入れた。
メンバーは畜産業や農業などさまざまな職種の13人。野崎さんの呼びかけに「町のカネに頼るなら参加したくない」と返事をした人たちだ。野崎さんも「町の支援を受けることは町の財政を削ること」と言い、自立した運営をグループの信条としている。
県内最大の5555発を打ち上げる花火大会には、町から毎年約1000万円の補助金が出ている。一方、唐津市では08年9月、花火大会の主催者が撤退したが、伝統を絶やすまいと地元の観光協会などが実行委員会を作り、約3000発を夜空に咲かせた。同じような状況になったとき、玄海町民はどうするか。「このままだと若者が町を出て地域が衰退する。立派な庁舎があるだけではだめなんです」。野崎さんは今、人づくりが必要だと思っている。
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原発で外津漁協には20億円を超える漁業補償金が転がり込んだ。カネが配られると、漁を辞めたり町外の飲食街で浪費する者もいた。今の漁協の運営も厳しく、交付金に頼るしかない。せめて「玄起海」だけは……。
「メンバーと夜遅くまで町の将来について語り合うのですよ。たとえ夢物語でも希望が持てますから」。野崎さんは口元を緩めた。=つづく